手首や指が曲げにくく痛む「腱鞘炎」
体内には筋肉と骨をつなぐ「腱」と、腱の通り道である「腱鞘」があります。
腱鞘炎は、指や手首の腱と硬くなった腱鞘の摩擦で炎症を起こし、痛みや腫れを生じる病気です。
腱鞘炎には、「ばね指」と「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」があり、それぞれ症状が出る部位が異なります。
腱鞘炎の種類
ばね指
ばね指は、腱鞘炎が進行した状態で、腱と腱鞘の摩擦により腱が腫れてしまうことで起こります。主に手のひら側の親指や人差し指、中指、薬指に発生し、以下のような症状があります。
- 指の付け根に腫れや熱感が生じる
- 指を曲げるときに引っかかる感じがある
- 指を伸ばすとばねのように跳ね返る
症状が進むと、腱が腱鞘に引っかかり、無理に動かすと一気に外れるため、「ばね指」と呼ばれます。
ドケルバン病
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)は、手首の親指側の腱と腱鞘が炎症を起こす病気です。
以下の症状が現れます。
- 手首を使う動作で痛みが出る
- 親指側の付け根から手首にかけての腫れや痛みの出現
- 親指を動かしたり広げたりすると痛みが出る
これらの症状が続くと、手首や指の動きに制限が生じることがあります。
腱鞘炎の原因
腱鞘炎は主に以下の理由で発生します。
手や指の使いすぎ
パソコンのキーボード入力、楽器演奏、執筆、スポーツ(野球、バレーボール、テニス)などの動作が多い人に多く見られます。
最近では、スマートフォンやゲーム操作による腱鞘炎も増えています。
筋力の弱さ
筋力が弱い人は腱に負担がかかりやすいため、腱鞘炎になりやすいです。
そのため、女性の発症率が高いです。
加齢
年齢とともに筋力が低下することや腱鞘が硬くなったり厚くなったりすることで発症します。
病気や治療の影響
関節リウマチ、糖尿病、人工透析などの病気や治療が原因で発症することがあります。
ホルモン変化
妊娠・出産期や更年期などで女性ホルモン「エストロゲン」のバランスが乱れることで発症します。
腱鞘炎の症状
ばね指の症状
- 曲がった指をまっすぐにしようとするとばねのように跳ねる(ばね現象)
- 指の曲げ伸ばしがスムーズではない
- 指を曲げる際に引っかかるような感覚がある
- 指の付け根に腫れや熱感がある
- 指が曲がったまま伸ばせない
- 指のこわばり、動かしにくさを感じる
ドケルバン病の症状
- 手首の親指側の痛みや腫れ
- 手首を使う動作をすると痛みが出る
- 親指側の付け根から手首にかけての腫れ、痛み
- 親指を動かしたり広げたりすると痛みが出る
- 手首を回すとき、ものをつかむ時、こぶしを握るなどの動作が取りづらい
- 親指を動かす時のツッパリ感
腱鞘炎の検査と診断
診察では視診と触診を行い、指の動きやばね指の特徴を確認します。
また、腱鞘部分を押して痛みの有無を確認します。
ドケルバン病では、腱鞘部分の腫れや圧痛の有無を確認し、親指と手首を一緒に小指側に曲げた時の痛みをみる『アイヒホッフテスト』を実施します。
必要に応じて、レントゲン検査で他の疾患との鑑別を行います。
腱鞘炎のセルフチェック
ばね指セルフチェック
ばね指では、指の付け根が腫れ、動かしにくくなります。
また、「ばね現象」と呼ばれる、一定以上に伸ばそうとすると、ばねがはじけるように指が急に伸びる現象が見られます。
ドケルバン病セルフチェック
手首の親指側に痛みや腫れが生じており、手首を直角に曲げて親指を伸ばしたとき、あるいは、親指と一緒に手首を小指側に曲げたときに痛みの増強が見られれば、ドケルバン病を疑います。
腱鞘炎の治療
腱鞘炎の治療では、使い過ぎを控えることが重要です。
指の曲げ伸ばしを少なくし、ひっかかる動作も控えましょう。
指の安静のために、夜間に指を伸ばしてテーピングすると効果的です。
ただし、全く動かさないと関節が固くなるため、適度なストレッチが必要も必要になります。
治らない場合には、塗り薬や注射も有効ですが、それでも改善しない場合は外科的手術が行われます。
保存療法
非ステロイド性消炎鎮痛薬や湿布を使用し、炎症を鎮めます。
日常生活に支障がある場合や、ばね指が再発する場合は、ステロイド注射が効果的です。
即効性がありますが、繰り返しの注射は組織をもろくするため、短期間に多用はできません。
動注治療
炎症が起きている部位の血管に直接薬剤を注入する治療法です。腱鞘炎は、手や手首、指などの腱が繰り返し使われることで炎症を起こし、痛みや腫れを伴います。動注治療では、炎症部位に直接薬剤が届けられるため、局所的な効果が高く、症状の改善が期待できます。
手術療法
薬物療法やステロイド注射でも効果がない場合や再発を繰り返す場合は手術を考慮します。
必要な場合は提携する病院を紹介します。
腱鞘炎の予防
腱鞘炎は、手指の腱と腱鞘への過度な負担が原因です。
予防には使い過ぎないことが重要です。
パソコンやスマホ操作で工夫する
定期的に休憩し、ストレッチをしましょう。
手首の負担を減らすためにクッションやサポーターを利用するのも効果的です。
また、スマホ操作は片手だけでなく両手を使うなど、負担が集中しないように心がけます。
産後の子育ての工夫
抱っこやおむつ替えなどで休まず手指を使いがちになるため、産後の女性は腱鞘炎になりやすいです。
家族と分担したり、手首に負担のかからない抱っこの姿勢を工夫したりなどを行いましょう。
スポーツでの工夫
不適切なグリップやフォームでの練習は、手指に負担がかかります。
正しいフォームを心がけましょう。
腱鞘炎が治らない理由
腱鞘炎の痛みが長引くのは、日常的に手を使いすぎるためです。
早期改善には、患部の安静が重要です。
手を休めると痛みは徐々に引いていきますが、日常生活で手を使わないことは難しいため、痛みが長引くことが多いです。
腱鞘炎を早く治すためには、医師による診察・治療が必要です。
次のような症状がある場合は整形外科医を受診しましょう。
放置すると長引くため、早めの対処が大切です。
- 2週間以上続く痛み
- 広い範囲で痛む
- 強く痛む
- 痛みとともに腫れや熱感がある